第八話終了後、九話の予告に代えて
焦げる匂いが戦場のものだとすぐに理解した。
鬨の声が響き渡る空の下、政宗は一人で立っていた。いや、一人ではない。
「独眼竜、伊達政宗殿か」
特徴のある二槍を携えた赤一色の若い武者が目の前にいた。長い鉢巻きを風に揺らした武者をもちろん知っている。
「真田幸村…?」
「いかにも。この上田城を預かる真田源二郎幸村。お相手お願い申し上げる」
幸村は一礼してから得物を抜いた。
「……もちろんだ、真田幸村」
政宗は言いながら周囲を見渡した。岩山に半ば食い込む天守閣は、確かに上田城のものだ。大軍で包囲した上田城下、撫で斬りに進んで来た。天守を守る城門の外では、小十郎があの生意気な忍と戦っているはずである。
多くの言葉を交わした訳ではなかったが、この男なら命を賭けて戦えると思った。ある意味、一目惚れだったと言っていいかもしれない。
政宗は身構えた。
腰に六爪。戴くは弦月。独眼竜の名は飾りではない。
「政宗殿」
幸村が言った。
「それでは戦えませぬぞ」
「A-n…?」
言われて、改めて自身を見た。
政宗が身につけているのは、着慣れた戦装束ではなかった。黒絹の束帯では刀など抜けない。自慢の六爪もない。あれほどしっかりと結わえた兜も無くなっている。
「これは…?」
「政宗殿」
幸村が悲しげに眉を寄せた。
「それでは戦えませぬぞ」
*
目を開けるより先に、意識が戻ることは珍しくない。政宗は寝床に横になったまま、不規則な揺れを感じた。まだ瀬戸の海の上、そろそろ安芸か、あるいはようよう伊予へ入るのか。松永を討ち、都を離れて数日経っただけのことだ。
上田城でもなければ、真田幸村と一騎打ちをするのでもない。
政宗は息を整え、ゆっくりと目を開けた。
元親の寝顔がすぐそこにあった。眼帯はなく、日に焼けていない顔の左側がやけに白く見える。
「……よく寝てやがるな」
額をくっつけるように一つの枕で朝を迎えるなど、小田原城ではなかなかできないことだ。船の上であるから深く交わることはできない代わりに、幼子のようにひとつ夜具で寝たのだったと思い出す。
「ちか、起きろよ」
「…んー…あー……まさむねー?」
まだ瞼のあがらない元親に焦れ、日焼けの境界にそって舐めてやった。
「うお」
「朝だぜ。今日あたり、もう着くんじゃねぇのか?」
「そうだな、潮と風の具合によるが。ちぃっと様子をみてこなくちゃあな」
元親がからからと笑って政宗を抱きしめてきた。
「けどまあ、その前にっと」
「何だよ」
「悪い夢なら忘れちまえ。いい夢なら俺が見せてやっからよ」
元親が海の青のような目をまっすぐに向けて、そう言った。政宗は少し笑って、頷いてやった。

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